自動車開発の流れ全体像

見積もり

自動車の新機種開発(フルモデルチェンジ)または一部改良(マイナーチェンジ)の際、自動車メーカーから各部品の見積もりをサプライヤーに依頼します。その見積もりの流れについて説明します。

顧客の声:VOC(Voice of Customer) 受注可能性10%

通常、新機種開発の情報はトップシークレットであり、そう簡単に手に入るものではありません。
そんななかで営業部門は足繁く完成車メーカーに通い、顧客の各部門との関係性を深め、雑談等を通じて新規モデルの情報を入手します。いかに顧客の懐に入り込み、面識を深めるかが重要です。ただしこの段階では噂レベルに過ぎません。誤った情報もよく出回りますので、要注意。

営業機会:SOF (Sales Opportunity form) 受注可能性30%

どの年度にどんなモデルを新規開発します、と顧客のアナウンスがあります。VOCよりも時期や台数が明確になるため、今後の売上計画に含めるSOFという状態になります。この段階では公式に見積り依頼は出てこないため、プロジェクトが動き出す際はぜひ見積もり取らせてくださいと依頼をしておきます。

見積り提出依頼:RFQ(Request for Quotation) 受注可能性50%

さて、メーカーとしても公式に新規モデルを開発するとなると、各部品の開発パートナーを探します。これが見積もり提出依頼です。この見積依頼書には、見積もり図面、要求SPECなどの設計情報に加え、台数、量産開始時期などの見積もりに必要な情報が含まれています。

見積作成(原価計算

RFQ情報をもとに、見積もりを作成します。直接部材費(材料費、部品費用)、加工費(設備稼働費用、人的資本投入量)、投資(金型費用、設備、治工具)、管理費、利益等々の譲歩が必要となるため、各担当部署に依頼をかけ、各情報を集約してコストを計算します。

直接部材費(購買部)

標準部品(ボルト、小部品等)について、見積もりします。大抵は量産流用が多い。(専用化するとコスト負けするため)
専用形状の部品については、社内見積もりとともに社外生産の場合の見積もりを取ります。
内製外製判断:社内製造コストと社外製造コストを比較し、生産場所を決定します。

加工費、投資(生産技術;工程設計書)

加工費用に加え、生産実現性検討(フィジビリ検討)として部品形状は本当に作れるか?
生産能力の余力はあるか?
投資費用、(金型、治工具)についても見積もりします。

社内承認 PAC(Project Approval Committee)

客先に見積もりを提出する前に、会社のお偉い様がたに見積もり費用の承認を得なくてはなりません。あまり儲からないプロジェクトと判断されれば、客先に見積もりを出さない(見積もり辞退)という決断もありえます。

特に開発費用が高額となる場合、償却完了までは開発費持ち出しとなりキャッシュフローが悪化するため、それに見合った将来のメリットを提示する必要があります。

見積提出

メーカーも基本的に相見積もりとして競合他社にも見積もりを出しており、安い見積もりを提示したサプライヤに発注することになります。
通常、1回の見積もりで終わることはなく、2~3回の見積もり提出が行われます。都度、見積もり作成~社内承認~見積もり提出が繰り返されます。顧客購買部から他社の価格レベルをそれとなく暗示されて、もっと安く頑張って(でないと受注できませんよ)という駆け引きが行われます。
または、各メーカー独自のコストテーブル(原価計算標準)を持っており、形状に応じておおよその値段予測を持っています。この値段より高い場合は、サプライヤに見積もりが想定より高い理由を確認することになります。

プロジェクト受注

他社との見積もり競争に勝利し、受注が確定するとその旨が通知されます(手配書)。
営業部門はお祭り騒ぎとなります。コロナ前であれば関係者一同で飲みに行く感じです。

試作開発

さてめでたくプロジェクト受注したわけですが、量産に向けて試作品を作って性能確認をします。

いきなり量産開始リスクが大きいため、まずは試作品で性能評価を実施し、部品の完成度を高めていかなくてはなりません。
昨今は試作レス開発等もありますが、基本的には現物で試作車を作って性能確認するのが自動車業界の基本です。

試作品設計

CADを使って、要求仕様を満たす部品を設計します。要求事項については完成写メーカーからのスペック一覧に記載されています。(トヨタ系だとRDDPと呼びます)

現在は2D+3D図が主流です。まずは3D CADを用いて形状を設計し、それを基に2D図面を作成するという流れになります。
使用するCADのソフトウェアは各メーカーによって異なります。(トヨタ、ホンダはCATIA、日産、スズキはNX等)
そのため、メーカーに3D形状データを送る際は、形式変換が必要となります。また、データを送る際は機密の関係上、各車特有の専用システムを利用します。

試作図面出図

試作品を作るためには試作図面を出図する必要があります。
出図の際には社内ノウハウの詰まった「チェックシート」(仕様確認、新規性、機能性、量産性、過去トラ)や「設計FMEA」があり、過去に起こった不具合やトラブルが今回の部品で再発しないようにチェックできる仕組みとなっています。
また各担当者が勝手に部品番号や名称を決めると収集がつかなくなるため、社内の部品番号、部品名称ルールが決まっており、それに従って部番、名称を取得します。(設計部の管理Grが内容をチェックし、OKであればシステムに登録、NGであれば差し戻しします)
また、2D、3D、部品表(BOM)がリリースっセットと呼ばれ、出図の際に必須の情報。
その他、工場側へ必要な情報を伝えるためのQA表、設変附票等も添付されます。
登録後、承認依頼のメールが各関係者に流れ、承認後正式登録となります。(ECM)

試作

図面出図後、試作部門が試作品を作ります。(外製の場合もあり)
一通りの帳票類(管理工程図、作業手順書、品質チェックシート等)が必要です。
必要な数量と納期によって作り方を決定します。

例えば樹脂部品であれば、ざっくり以下のようなイメージです
少量(10ケ以下):3Dプリンタを使った造形品。1ケ1ケつくるので時間がかかる。
程々(10~30ケ):注形品(造形品を基にシリコン型をとり、シリコン型を離型する。シリコン型なので耐久性低く、大量は作れない。)
多い(30ケ~):試作金型(ZAS型)と呼ばれる、溶かして再利用可能な金属でできた金型等を用いて生産する。

大抵の場合、鬼のような短納期で手配がかかるので、試作部門はフル稼働となります。
(図面出図が遅れても、試作品納期は変わらないとかどういうこと…)

試作品測定

試作品の寸法出来栄えを評価します。目的としては主に2つあり、
1.金型修正箇所を評価するため。
2.客先に納入する際の成績書を作成する。100%寸法が出ないことも多々あり、その場合は特別採用申請となる。

試作品評価

出来上がった試作品を用いて、性能試験を実施します。テストGr、研究Gr、評価Gr、実験Gr等の担当者が実施します。
試験方法にも各社のノウハウが詰まっており、SPECだけあればどこでも実施可能というわけではありません。
評価結果は「技術報告書」というフォーマットにまとめられ、関係者に配布されます。
また、メーカーの試作車イベントに合わせて試作品を納入(試作手配)があり、メーカーでも完成車としての評価を実施します。

評価結果を部品設計に反映

一回の試作評価で全要求を満たして開発完了することはほとんどありません。
試作評価結果をもとに、設計変更(改定出図)、再試作、再評価というサイクルを繰り返し、玉成していきます。

量産出図

要求仕様を満たす量産仕様が決定したら、量産図面を出図し、担当工場の関係者に配布します。
ここまでが研究開発のゾーンで、基本的に設計Grや試験Grが主担当になります。
量産出図が完了したら、主担当は各工場の製造Gr、生産技術Gr、品質保証Grに移ります。

<コラム>設変費用

品質問題等で設計変更する場合、タイミングが遅れるほど被害が大きくなります。そのため不具合は試作段階で洗い出してし、量産後の問題を未然に防ぐことが重要です。費用のイメージとしては1段階遅れるごとに10倍になるイメージです。

試作段階:10万円(図面変更、試作品再製作)
立ち上げ段階:100万円(図面変更、量産金型改修)
量産段階:1000万円(図面変更、量産金型改修、市場品回収交換)

また、開発中の設変履歴は一覧で管理することで、開発状況、コスト変動を振り返ることが可能です。

<コラム>特許申請

新規性がある場合、競争力確保、優位性確保、自社技術の流出防止のため特許を取得することがあります。特に量産図面がメーカー図だった場合、他社への転注を防止する面でも特許は重要です。

量産準備

さて、量産図面が出図されたら生産工場での量産準備に入ります。

PPAP

PPAP (Production Part Approval Process)の略ですが、覚える必要はありません。
量産に向けて必要な書類18種類の帳票のことです。

  • 1 Design Record (設計文書)
  • 2 Authorized Engineering Change Documents (承認された設計変更文書 )
  • 3 Customer Engineering Approval (顧客技術部承認)
  • 4 Design Failure Mode and Effects analysis(design FMEA) (設計故障モードおよび影響解析(設計FMEA))
  • 5 Process Flow Diagram(s) (工程フロー図)
  • 6 Process Failure Mode and Effects Analysis(processFMEA) (プロセス故障モードおよび影響解析(工程FMEA))
  • 7 Control Plan (コントロールプラン)
  • 8 Measurement System Analysis Studies (測定システム分析・調査)
  • 9 Dimensional Results (寸法測定結果)
  • 10 Records or Material / Performance Test Results (材料性能試験結果)
  • 11 Iinitial Process Studies (初期工程分析)
  • 12 Qualified Laboratory Documentation (適合試験所文書)
  • 13 Appearance Approval Report(AAR) (外観承認報告書(AAR))
  • 14 Sample Production Parts (生産部品(顧客評価)サンプル)
  • 15 Master Sample (マスター(標準)サンプル)
  • 16 Checking Aids (検査補助工具)
  • 17 Customer-Specific Requirements (顧客固有要求事項)
  • 18 Part Submission Warrant(PSW) (部品提出保証書(PSW))

生技タスク

・工程設計書
・工程FMEA
・金型手配、設備手配、治工具手配
・設備条件表
・納入荷姿検討
など

品証タスク

PPAP一式準備
・管理工程図(QC図、Control Plan)
・検査規格
・初期流動計画書
など、顧客によって準備帳票は様々

製造タスク

実際の生産に欠かせない標準類やフォーマットを準備していきます。

・段取り手順書
・標準作業書
・設備操作手順
・生産日報
・作業習熟計画
など

PSW承認(量産承認)

以上の帳票をPPAPガイドラインにそって準備し、必要帳票を提出することで、顧客から量産承認がもらえます。PSW (Part Submission warrant)という帳票を使用します。

量産管理

量産後の主な活動

◆Q(品質)

納入不良対応

完成車メーカーに不良品が流出してしまったときの対応。

工程内不良低減活動

社内検知不良品の対応。社内ロス(仕損じ)をへらすための活動

市場不良

完成車メーカーでも見つからず、市場のエンドユーザで不具合が発生した際の対応。

工程変更

4M変化点管理ともいう。4Mとは(Man Machine Method Material)のこと。5M(=Measurement)だったり5M1E(+Environment)だったりする。

品質指標管理 (KPI管理)

品質会議で上記の指標が目標達成状況を管理する。

IATF16949/ISO9001

品質管理マネジメントシステムの認証。維持するために年一回、内部監査と外部監査を受けなくてはならない。毎年監査を受けて問題なければ認定継続される仕組みになっている。

◆C(コスト)

生産性(設備総合効率OEE)

工程設計通りに生産できた場合を100%として、実際にいくつ良品が作れたかという指標。段取り、設備効率、良品率などに分けて監視し、改善点を見つけ出すのに役立つ。
段取り時間短縮、サイクルタイム短縮、レイアウト改善(ハンドリング工数低減)、チョコ停改善、仕損じ低減など、活動は多岐にわたる。

VA/VE活動

通常完成車メーカーから毎年3%程度の原価低減要求がある。近年は材料費高騰が激しいので原価低減どころか、値上げ交渉の場に変わる。
材料変更、サプライヤ変更、OEE改善、自動化などにより原価低減に取り組むが、これがなかなか難しい。
効果額が費用に見合うアイデアを見つけ出す必要がある。

◆D(納入)

材料取り入れ管理

サプライヤからの購入部品を発注、管理する。

受注管理/生産管理

(内示、カンバン方式):コロナ禍でのキーワードですね。完成車メーカーからの内示(発注見込み数量)を信じて生産計画を建てざるを得ないが、突然減ったり増えたりするため注意が必要。特に増加時(挽回生産)に備え在庫は多めに持ちたいが、在庫が過剰だとキャッシュフローが悪化するため経営陣から文句を言われるという、なんとも板挟みな部門。在庫低減活動はバランス感覚が重要です。

生産指図

現場は生産指図に従って製品を作る。毎日計画通りれたどおりに製品が作れれば苦労はしないが、日々現場ではありとあらゆるトラブルが起こるので、それをなんとかしながら生産をするのが仕事。製造、生産技術、品質保証が一体となってなんとかする。

ロジスティクス(物流管理)

Keyword : ハブアンドスポーク方式、ミルクラン、かんばん方式、Just In Time(JIT)、納入時区
など、物流は知れば知るほど奥深いですよね。
海外物流:Incoterms、ノックダウン方式など